今春実施される診療報酬改定に対策する戦略手法の事例を今号にて紹介する旨、前号にて記載したが、その前に医療機関経営者(理事長、院長)の継承に関し、興味あるケースが数例あり、切実な直裁なケースとして紹介するに値すると考え、今号は、この継承の課題とする。ご了解を乞う。
【ケース1】
74歳になる創業者、理事長院長は有名医科大学にて医局長を永年勤め、その折の教授、後継の教授も含め教室に相当な影響を有し、開業後も医師の整備に関して相応のレベルで対策出来た人物であり、医療機関である。
200床の規模の病院を中核に保健、福祉も関連した施設展開を図り、地域の中心医療機関として確固たる地位を築いている。
やがて、後継者たる長男は地方医科大学を卒業、即、父親の医大教室に転入、落ち着く間もなく有力専門病院に研修生として入り、2年間そして自院に入職した経過であり、実績を積みつつある立場である。
近年に至り、父親たる理事長・院長は高齢でもあり、過労・ストレス等から高血圧症にて年に数回入院治療する状態が続き、今般 考慮の結果、後継者の指名を行った。
私たちの予想に反し、自身は理事長として週2〜3日の治療を行うとし、院長として長男を指名した。
私達及び職員の多くは現理事長・院長の医大後輩であり、医師としても人間的にも実力あり、人望ある現副院長を院長とし、3〜5年間運営を継承していただき、この間長男の教育と経験を積ませる期間が長男本人の財産となると考え、提議したが結果、理事長の方針は変わらず、院長とした。
この経過の中で、現副院長は長男のため、身を引く事を決意辞任に至ったが3名の常勤医師が後を追う事となった。
新院長たる長男は今日迄キャリアから先輩後輩、同僚、友人、知人の巾が小さく、医師を招聘できず、たちまち医師不足の事態となった
充分予測しえた事を強行した現理事長の意思決定はまさに家業的判断であり、大きな問題を提起していると言える。医療法人は公益法人であり、一個人の事業ではない。この判断は問題として検討されるべき事であろう。
【ケース2】
誌面の都合でポイント紹介とするが、これらの事例は計画的な継承である。現理事長は69歳。5施設約700名の職員を有する地域有力医療機関である。
本年、5年後に長男に継承するとし、この5年間の事業経営計画を策定、この実施を自分の経営責任として内外に明確に公示した。
私たちはこの5年間の仕事として後継院長たる長男のブレーンづくり、内外の組織整備に尽力し、5年後には現理事長のスタッフ、つまり新理事長にとっては番頭となろうスタッフの更新を図る時間的余裕が出来た訳である。
おそらく5年間の時間の中で無理なく継承が実現されてゆくものと信じている。
【ケース3】
創業2代目から3代目への事業継承であるが、事業内容の大巾な変更を理由に、単なる継承ではなく新しい医療機関を策定する立場として理事長職を継承したケースもある。
この場合、新理事長こそ、この機能変革したトップとして、ふさわしい医師であり、経営者であるとして内外から期待され、信頼されて継承した。
事業継承は事業組織の運営上、大きなターニングポイントである。少なくとも公益法人として社会性、公共性を要求される法人である事から私的要素、家業的継承は避けるべき事であろう。
事業は永遠である。経営は継続されるべきものである。公私の明確な区分こそ、医療経営者の大切な要素であろう。
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(株)日本医療経営研究所
主任研究員 小澤 憲幸