【はじめに】
ここ数年来医療経営環境が大変厳しくなってきた最大の要因は我国の健康保険制度崩壊の危機への対応策に端を発しており、その解決策として昭和62年に答申された厚生省による「国民総合医療対策中間報告」において量から質への医療の転換が謳われ、具体的にはその後、地域医療計画による病床規制、地域完結型医療と病院の機能分け、介護保険制度の発足等々へと超高齢化少子化に向けた政策が展開されてきた。
かつてオリンピック景気や地価を中心とするバブル経済化においては医療機関も例外なく建物や設備機器への大型投資や施設のスクラップアンドビルド化が行われ、以前とは見違えるような豪華な病医院に生まれ変わった。
しかし、今日では小泉政権以来の国家財政や国民所得の低迷による待ったなしの聖域なき財政改革の名の下に病床数の削減から始まり、補助金の削減、診療報酬・介護報酬の実質的な抑制となって経営を直撃し、一方で所得格差の拡がる社会、老人の先行不安による受診抑制となって現れ、多くの医療機関において患者減・収益減を来たし、まさに一般企業並みの経営における優勝劣敗が当たり前の時代になってきている。
そこで、私達は病院リニューアル再生機構を発足し、経営資源の人・物・金・情報のうち、物即ち建物、設備につき経営的観点に立ったリニューアルを提案する次第である。
【1】収益増大戦略
(1)診療科の見直しと再編成
患者動向や収益対費用の原価管理を行うと共に、あるいは医師退職に伴う診療科の機能低下による不採算部門への対策として、科目の再編成を行う必要がある。それに伴い、診療室の間仕切変更や内装変更、機器の変更など検討をされなければならない。又、今後は従来の臓器別診療科目を疾患別の糖尿、メタボ、アレルギーなどの名称を変えた場合、建物・設備の変更も生じよう。
(2)新たな診療機能の導入
上記(1)に伴い、または新たな診療部門を設けるために診察室に近接してあるいは他の部門に併設して点滴室、内視鏡室、オンコロジー室、検査室、画像検査診断室、処置室の増設、さらには 超音波治療器、リニアック、放射線照射装置など大型の機器導入のための部屋も必要となろう。 |
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(3)予防医療 予防介護に伴うリニューアル
今日、行政は 医療・介護を治療や入所から予防や在宅に政策を大きくシフトしており、その為の予算処置や仕組みづくりを急速にすすめている。健康診断は国が企業や団体に対して保険者にメタボリックシンドロームをはじめとして今後さまざまな予防努力をアメとムチ政策によって半ば強制しており 健診、さらには健康予防指導の面で病院にとってはこれをチャンスと捉えることもできよう。 近年、健康に対しては自分の身体は自分で守る。いわゆる自己責任が強く問われ、それがためにいざ病気になると保険診療以外の高額な実費を請求される。その為に人間ドックで精密な検診は今後増える傾向にある。その場合、病室の転用よりも別棟か、フロアーを分けて設ける必要があろう。ドッグは主として機器の稼動率いかんが大きく収益の増減に影響する。受診者の流れをシステム化することが大切である。
(4)代替医療 相補医療の併設
今日、様々な生活習慣病に伴う疾病(ガン・糖尿病・心臓病・喘息・アレルギー症状など)に対して西洋医学の限界が指摘され、漢方・鍼灸・整体・温熱・アロマ・サプリメントなどを用いた代替医療が普えんしてきている。米国をはじめ先進諸国においては世界的潮流となっており、導入の可能性が検討される必要が生まれてきている。この場合、施設的には別敷地、別棟にする必要もあろう。地域の行政と相談する必要がある。
(5)手術室まわりの整備
今日、手術は腹腔鏡やファイバースコープを用いたメスを使わない技術が進み、また病院によっては手術の縮小傾向が多くなってきている。一方、急性期や脳、心臓、整形の高度専門病院においては逆に手術室まわりにおいて部屋数の増加・室内環境の高度化、機器の充実など強化する傾向にあり、二極分化されつつある。前者においては空いたスペースの有効活用が重要であり、後者においては他室の転用または増築で対応しなければならない。
(6)多床室の個室化
一般的に民間中小病院においては個室化に臆病である。しかし、大学病院や大病院においては多床室においても差額を徴収することからみてレベルの高い医療を行う民間病院においては全個室にして、差額徴収しても成り立つ。これは大きな収益源である。当機構で扱った民間の2,3の中小病院でオール個室にした結果、稼働率が90%を超える状況にある。但し、今日オール個室でも50%の部屋に差額徴収はできないが、将来はこれも撤廃されよう。オール個室は患者さんの治癒力を高める早める効果があり、在院日数短縮にも貢献する。
(7)初診患者問診室
患者さん達からの最も多い不満は“待たされる”にあり、多くの患者さんが3時間待ち3分診療は当たり前といったあきらめに近い心境に置かれている。また、医師の側も待たせるのは仕方がない、当然だといった感覚がある。そもそも最も時間のかかる患者さんは初診の患者さんであり、これを縮めれば再診の患者さんにもっとゆとりを持って時間をさけることができる。そこで、初診患者さんに対し、ベテラン看護師さんなどコメディカルの人に医師に替わって事前の問診並びにチェックを行うことによって医師はそれを当患者さんが入室する前にあらかじめ目を通しておけば聴くポイントも絞れ、大いに時間の節約となる。特に初診患者さんは忙しそうな医師の前では聞いてほしいことの2〜3割しか言えず、又医師も先を急ぐのでつい余計な質問が来ると遮ってしまう傾向があり、それが患者さんの大きな不満となっている。やさしい看護師さんあがりの人がじっくり話を聴いてあげることで不安を吐き出させ、安心感や信頼感が増すことになる。相談室は当然のことながら安心感、快適感をかもしだす雰囲気づくりが大切である。
(8)その他
院内売店のコンビニ化
入院患者さんにとって外出できないが故に売店での買物は気晴らしになるものであり、又外来患者さんにとっても便利の提供や待ち時間の活用においても欲しい場所である。それにしてもほとんどの病院における従来の院内売店は余りにも魅力に乏しい。品揃えや売店の雰囲気全ての面で街のお店に大きく劣る。できれば地域の人達も利用できる売店として利用しやすい場所に家賃をとってコンビニの出店や健康食を提供する飲食店の誘致を考えても良いのではないか。
駐車場の有料化
今日多くの中小病院においては特に公共交通手段の少ない地方において車社会の進展により駐車場をいかに確保するかは大きな課題となっている。無料にするがために来院患者さん以外の外部の人達の駐車をチェックすることに頭を悩ませているのが現状である。敷地が狭ければ機械駐車、立体駐車、自走式の建物駐車の検討と料金徴収、又は部外者チェックシステムが検討されなければならない。
代表取締役 野口哲英
→【3】建物・設備における安全性
【4】生産性向上と効率化
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