メールマガジン【医師のための禅】

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《 医師のための禅 》
その79
2006.06.08

 〜医療 福祉 経営と禅  その3〜

”人と舟”
    
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  ここ数年前までの医療行政はあたかも静かな湖に病院という舟が地域医療計画の名の下に守られ、また病院の機能分けや病診連携政策をもって経営環境が保たれてきた。しかしここに来て国家財政という湖の水量も異常気象で干上がり、やむなく狭い湖でひしめき合っていた多くの舟を湖から川へと誘導する政策を取らざるを得なくなってしまった。
 
   しかし、その川も大河ではなく、狭い激流渦巻く川であり、崖あり岩あり滝ありの厳しい流れであり、その流れの中で国が予測する病床数にまで自然淘汰されることもやむを得ぬとする報酬上での各種の誘導策を提示している状況にある。このような状況において病院はどうするか。坐して死を待つわけには行かない。トップ自らの強力なリーダーシップと組織を上げて職員一丸となって舟を進めて行かなければならない。
 
  道元禅師は正法眼蔵95巻の中の第12巻「全機」においてその状況を以下のようにしている。
 
  「生 というは例えば人の舟に乗れるときのごとし。この舟はわれ帆を使い、われ舵をとれり。われ竿をさすといえども舟われをのせて、舟のほかにわれるし、われ舟にのりて、この舟をふねならしむ。この正当恁麼時を功夫参学すべし、この正当恁麼時は舟の世界にあらざることなし、天も水も岸もみな舟の時節となれり。」
 
  生とは即ち病院の存続、発展とみれば、病院という舟に職員が多勢乗っていると例えられる。船長たるトップはリーダーとして舵取りを行う、トップは病院と一体であり、トップとして主人公であるが、舟がなければトップたり得ず、又船底一枚下は命がかかる激流である。全身全霊を病院という舟と一体となる。職員と完全に一体となることで病院を病院たらしめることになる。このまさに今、ここをしっかりとつかむ努力が大切である。
 
今ここの舟、即ちトップは全世界であり、まわりの環境や行政、水というお客さんや地域の人々、空という連携医療介護機関や利害関係者全てが病院(経営)と一体、バックアップとして取り込むことが大切であると示唆している。
   
 
 このように自院を取り巻く経営環境をしっかりと把握し、それを味方につけることが肝要であり、流れに逆らったり、自分に不利なことから逃げたり、逆にエネルギーを浪費する他との争いや足の引っ張り合いなどをしたのでは激流に翻弄され、呑み込まれ、ついには木っ端微塵となること必定である。
 
  この激流から川下の大河が開けるまではただひたすら眼前の今、ここに一体となって無我夢中、行動に行動を重ねることであり、手抜きや休息をしている余裕はないものと見なければならない。
 
 
 無我夢中とは今こうした方が得だ、損だと考えることをやめて、ただひたすらそれになりきり行動する、言い換えれば、未来の明るい可能性を持った夢のある今ここのことであり、そのイメージを画くことで今、ここの苦しさやつらさも感じない行動となるものである。
 
 病院の都合や自分の我を捨てて、患者さん達の真のニーズに答えていたか、ニーズを先取りして提案して来たかが問われているのである。医療経営は一般企業と同様お客さん(患者さんだけではない)があってはじめて成立するのであり、厚労省や支払機関はお客さんではない。トップが我欲を離れて(無や空に徹して)原点に戻り、医療の本質に迫り、そのあるべき姿が 画 ければそれが空即是色の世界である。
 
  人は誰でも病気になりたくない。健康でありたい。人や家族とのより良き関係の中で死を迎えたいなどといった人として当たり前の願い根元的なニーズに真摯に向き合い、どう答えてゆくかがチャンスを見出すコツである。

 

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